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大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)54号 判決

京都市右京区西院高山寺町一番地

控訴人

株式会社水月

右代表者代表取締役

柏田すみ子

右訴訟代理人弁護士

前堀政幸

前堀克彦

同市同区西院上花田町一〇番地

被控訴人

右京税務署長

吉川陳幸

右指定代理人検事

細井淳久

法務事務官 河口進

大蔵事務官 川崎一

大槻福治

山下功

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

原判決を取り消す。

本件を京都地方裁判所へ差し戻す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人の主張

(一)  課税処分において法人の所得の帰属事業年度の認定に誤りがあるという事実は、国税通則法二六条にいう「課税標準等または税額等が過大または過少であること」という要件に該当せず、再更正によつてその誤りを是正することはできない。

(二)  第二次更正処分および第三次更正処分はいずれも本件訴訟の係属中になされたものであり、控訴人が訴訟においてした主張・立証により、被控訴人が所得の帰属事業年度の認定を誤っていた事実を知つたために、右各処分をしなければならなくなつたのである。しかし、第二次更正処分における昭和四二年事業年度の確定申告についての再更正決定にはその理由が明記されていないから、たとえ控訴人がその理由を推知できるとしても違法または無効というべきである。

(三)  仮りに再更正決定の理由が明記されていないことが違法でなく、かつ、その理由が控訴人の推知するような右の事業年度についての事実誤認にあるとしても、再更正決定は、更正決定をする時点までの調査資料によつてなされるべきものであつて、更正処分の取消を訴求する訴が提起された後に、その訴訟に現われた新たな資料によつて再更正決定をすることは許されないと解すべきである。ただし、これを許すと、控訴人はさらに再更正決定の当否を争うために新な異議の申立等法定の手続を践んで訴を提起しなければならず、かくては被控訴人のくり返す再更正決定に引きずり廻されることとなつて、公平を失するからである。この理は、本件のごとく再更正決定で税額零に決定された場合であつても、貫かれなければならない。したがつて、被控訴人が本件訴訟提起後に得た資料に基づいてした第二次更正処分は無効であるか、少なくとも違法であつて取り消されるべきである。

(四)  再更正が行なわれても、さきに同一行政庁の行なつたこれと内容を異にする当初の更正は当然に取り消されて消滅するものと解すべきではない。更正決定と違法処分の取消とは法的性格を異にする。たとえば、国税通則法三二条二項に該当する場合は、「税額を変更する決定」がなされるのであり、税額が零に変更されたとしても、元の処分の取消を意味しない。

(五)  控訴人にとつては、違法な第二次更正処分の無効または取消を求め、これを前提として遡つて理由のない第一次更正処分の取消を求めて、判決により、控訴人のした確定申告が正当であつたことの証明を得る法律上の利益が存する。

(六)  しかも、昭和四二年事業年度の確定申告についてであれ、昭和四三年事業年度の確定申告についてであれ、被控訴人が第一次更正処分および第三次更正処分において控訴人の簿外所得と認定した所得および所得原因は存在せず、控訴人は、第一次更正処分の取消を求める請求の原因として、右のように事業年度如何にかかわらず同じ簿外所得および所得原因の存否を争つているのであるから、右処分の取消請求の訴は実質的には右簿外所得および所得原因の存否を争う訴の利益を内包する。

(七)  したがつて、第二次更正処分により訴の利益が消滅したとすることは、被控訴人が更正決定の権限を濫用して第二次更正処分をし、もつて本件訴訟を回避することを是認するものである。

二、被控訴人の主張

(一)  第二次更正処分は、第一次更正処分を当然に取り消して消滅させる処分であるから、これに理由を付記する必要はまつたくなく、第二次更正処分は違法ではない。

(二)  国税通則法二六条によれば、再更正は、税務署長が「更正又は決定をした課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知つたとき」に「その調査により」なすべきものであるから、再更正が原更正の時点までに調査した資料によつてのみなされるべきものであるとの控訴人の主張は根拠がない。

(三)  法人税は、法人の各事業年度の所得について、これに対して課されるものである(法人税法五条)から、本件簿外所得の存否についても、その帰属すべき事業年度を無視することはできない。本件の第一次更正処分は、当該事業年度のみの所得にかかるものであるから、本件簿外所得が同年度に帰属すべきものでないとすれば、もはや本件簿外所得の所得原因の存否を争つても意味がないことになる。

理由

当裁判所も、控訴人の本件訴はその利益を欠くものと解するのであつて、その理由は、次に付加するほか、原判決理由のとおりであるから、これを引用する。

本件第二次更正処分は、第一次更正処分における課税標準および税額を再更正して、これを控訴人の確定申告額と同一額に減額し、かつ、重加算税額を零円としたものであつて、それ自体が控訴人に課税上の不利益を及ぼさないものであることが明らかであり、他に控訴人においてその効力を争うべき必要性は認められないから、控訴人において第二次更正処分の無効確認を求める利益を欠くものというほかはなく、同処分についての違法事由の有無を判断するに及ばない。

また、更正と再更正とは別個独立の処分ではあるが、右のように更正にかかる課税標準および税額を減額して確定申告額と同一額とする再更正がなされ、右再更正が無効とされる余地のないものである以上、当初の更正がその限度において変更されたのと同一の法律関係を生じ、控訴人が第一次更正処分に基づいて確定申告額を超える税額を納付すべき義務は消滅したのであるから、右処分の取消を求める利益も失われたものというべきである。すなわち、法人税は、法人の各事業年度の所得に対して課され、したがつて、課税標準および税額は各事業年度ごとに定められるのであるから、第一次更正処分において昭和四二年事業年度の課税標準たる所得と認定された控訴人主張の本件簿外所得が、他の事業年度に帰属すべかりし所得であることが後に判明したため、被控訴人がこれを是正する手段として、昭和四二年事業年度の課税標準から右簿外所得の額を減額する再更正たる第二次更正処分をしたことは、当然の措置であつて、これが第一次更正処分の取消を求める本件訴訟の係属中になされたからといつて訴訟回避の目的に出たものとみることはできないとともに、控訴人が昭和四二年事業年度における右簿外所得の不存在を主張して第一次更正処分の取消を求める必要はなくなつたことが明らかであり(その意味では、控訴人の同年度の確定申告が正当であつたことは被控訴人にも承認されたところである)、控訴人が、帰属の事業年度の如何にかかわらず本件簿外所得の存在しないことを主張するとしても、これを新たに昭和四三年事業年度の所得と認定した第三次更正処分の違法事由として主張して、同処分の取消を求めるほかはないのである。

よつて、本件控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 野田宏 裁判官 中田耕三)

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